小池都知事が率いる「希望の党」の公約にある企業の内部留保への課税。簡単に言うと、企業が創業から現在までで、積み上げてきた利益残高に課税する、という提案です。
内部留保≒利益剰余金は、当期利益(課税後の利益)の積み上げになっているので、これに課税することは、明らかな二重課税になります。
また、内部留保=企業の保有している現預金ではないため、内部留保に課税することで、借金してでも税金を払わないと行けない状態になってしまう企業も出てくるでしょう。
とうぜん、政財界からは、批判の声が出ています。
一方でこんな話もあるようですが、
内部留保に関しては、配当金支払い時の源泉税などで、すでに一部は二重課税になっている部分があり、どこまでを二重課税と捉えるかは、線引が難しい問題です。
ただ、「内部留保課税」に関しては、配当所得税と原資が同一であるため、極論すると、政府の税収入は増えず「内部留保課税」と「配当所得税」でシーソーゲームをするだけになってしまいます。
また、企業誘致の視点から法人税の減税を行っている中、企業にさらなる負担を強いるのは、行動が矛盾してしまいます。
内部留保課税の仕組み
内部留保は、企業が企業が経済活動を通して獲得した利益のうち、企業内部へ保留され蓄積された部分のことである。(by wikipedia)
ちなみに、会計学用語に、内部留保という言葉はありません。同じ意味合いの言葉で、利益剰余金というものがありますので、今後は、内部留保=利益剰余金と考えます。
内部留保とは何か
企業が経済活動を行うと、一定額の利益が発生します。仮に、一年間で300の売上と200の仕入れを行った企業Aがあるとします。その企業の税引前利益は100。掛売りなどもなく、PLの動きとCFの動きにズレがない、と仮定しましょう。
法人税の税率は、20%とします。そうすると、企業の納付する税金は20、企業に残る当期利益は80となります。この80が、企業のBSの右下の部分、「純資産の部」に追加されます。
こうやって発生した当期利益の積立残が、今回の課税対象として上げられている、内部留保=利益剰余金になります。
内部留保課税の計算
内部留保課税の税率を、仮に1%とします。企業Aの業績は変わらず、毎期80(100-20)の当期利益=利益剰余金が発生するとします。このモデルで、内部留保課税を行っていくと。
1年前:利益剰余金 80 内部留保課税 0.8(80×1%)
2年目:利益剰余金 160(80+80) 内部留保課税 1.6(160×0.1%)
3年目:利益剰余金 240(160+80) 内部留保課税 2.4(240×0.1%)
~
10年目:利益剰余金 800(720+80) 内部留保課税 8(800×0.1%)
~
100年目:利益剰余金 8,000(7,920+80) 内部留保課税 80(8,000×0.1%)
当期の利益が変わらないにも関わらず、課税額はどんどん増え続けます。最終的には当期利益80が、すべて税金として取られてしまいます。
内部留保課税の問題点
税集の財源として、利益剰余金に課税するというのは、徴収側としては安定しているよように見えます。ただ、一方で上記のモデルのような、小規模な企業の場合は、企業規模に合わない税収が発生する可能性もあります。
内部留保課税が実現した場合に考えられる問題点としては、
1.身の丈に合わない課税額を課される可能性がある。
これは先程の企業Aのモデルの通り、小規模な企業の場合、利益剰余金の積み重ねによって身の丈に合わない課税をされる可能性があります。
2.配当所得税との綱引きになる
利益剰余金は、当期利益によって増えて、配当金の支払いによって減ります。極端なはなし、企業が利益剰余金をすべて配当してしまえば、内部留保課税はゼロになり、課税額も同じくゼロになってしまいます。
内部留保課税は、元本を同じくする配当所得税と綱引きの関係にあると言えるでしょう。それならば、アメリカのように、配当所得税を累進課税にするなどの方策のほうが、現実的でしょう。
さいごに、もっと企業に利益を出させよう
内部留保課税に関しては、短期的な税収をとるのならともかく、今後も成長路線を日本が走るのなら、確実に止めたほうが良い提案でしょう。日経新聞の記事で、自民党も実は「内部留保課税」を求めているとありますが、今までの法人税減税の流れからも信憑性は薄いと思います。
それならば、アメリカのように配当所得税を累進課税にして、高額配当所得者には高い税金を課すほうが、格差是正の意味もあってよっぽど適正だと思います。
給与所得等、配当所得及び長期キャピタル・ゲインの順に所得を積み上げて、配当所得及び長期キャピタル・ゲインのうち、37,650ドル(463万円)以下のブラケットに対応する部分には0%、37,650ドル超のブラケットに対応する部分には15%、415,050ドル(5,105万円)超のブラケットに対応する部分には20%の税率が適用される(単身者の場合)。なお、州・地方政府税については、税率等は各々異なる。
先も書きましたが、内部留保課税と配当所得税の、課税元本は同じなので、新しい徴収方法を作るよりも、既存の税法を改良したほうが現実的でしょう。
グローバル化の昨今、企業は国に縛られる存在ではなくなっています。国の財源確保のために闇雲に企業から税金を搾り取ろうとすると、企業はすぐに他の国に移ってしまうでしょう。
そうなると大事なのは、課税方法よりも、大本の課税所得額を如何に増やすかと言う問題ではないでしょうか。企業が利益をたくさん出すことが出来れば、その分税収も増えることになります。
利益がたくさん出れば、その分税率も下げられます。そうしたら、海外の企業も日本に移ってきて、その分、税金の歳入も増えることでしょう。無理やり税金を納めさせるのではなくて、喜んで納付してもらう。
そんな国になれれば理想ですね。